「乙女ゲームの世界でヒロインの姉としてフラグを折っています。」感想

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 こちらは↓ウェブ版、書籍の続き(書籍は主人公が一年生から、ウェブ版の本編は二年生から)があります。

主人公の激烈な攻撃力は運命を信じることによって生じています。転生というありえない出来事、符号する事実、そして信じなければ自身の破滅(悪役令嬢物で多い)や大切なものを守ることにつながる(本作はこれ)ことから、運命に対してなんらかの態度を取らなければならなくなります。誰とも分かち合えない運命による孤独、そして闘いの物語は、紛れもなく英雄譚であり普遍的な物語形式に則ったものなのです。信じることの純度は物語によって様々ですが、本作の主人公の信じている度合いは相当なものです。目的である妹の防衛のため、攻撃こそが最大の防御といわんばかりに運命というまさかりを振るいます。私がこの小説を好きなのは運命を信じ、反逆する主人公が好きだからです。では、とても好きなシーンを引用したいと思います。(なろうの小説で特にほかの媒体と比べて素晴らしい点はこの素晴らしい引用のしやすさです) 

「過去編 真梨香 1年 4」17ページより

●≪ネタばれ注意≫自身のifともいえる黒幕に対する語り

  繰り出された平手を無言で受ける。平手そのものは軽すぎるほどの力だったけれど、鋭く整えられた爪が頬を切ったらしく、ピリッと痛んだ。沢渡は自分の指先に付いた私の血に怯んだように後ずさる。その手を掴んで逃げることを許さず、もう一度頬を打つと、掴んだ手を頬の傷に押し付けた。暴れる華奢な体を抑えて、その掌に血を擦り付ける。沢渡は熱湯に手を押し付けられたかのように暴れた。

「謝罪はいらない。私も謝らないから。あなたは白木さんたち特待生に直接ではないけれど生涯残る傷をつけた。彼女たちは傷痕を見るたびにその時の恐怖と、苦痛と屈辱を思い出してしまうから。だから、あなたにも忘れさせない。あなたはあなた自身の選択で、自身の手を血で汚したのだと、思い知ってちょうだい」

 沢渡の白い手には私の血がこびりついている。逃げようと暴れるその手を強く掴んだまま、引き裂かれたブラウスの間、心臓の真上に押し当てた。

「そしてこれがあなたが手にかけようとした命」

 鼓動が掌越しに沢渡に伝わる。代わりに私の胸には沢渡の震えが伝わってくる。

「あなたは人の手を借りて私を殺そうとしたけれど、たとえ人の手を借りても、人を殺すってことはこの中の心臓をこの手で掴んで握りつぶすのと同じよ。柔らかく脈打つ肉を握って、血が噴き出して、ゆっくりとその働きを止める瞬間を想像して。血と脂が手に纏わりついて、血管が最後の最後にぴくぴくと痙攣して、最後の鼓動を刻む…」

 我ながらグロい表現をしたと思う。沢渡の震えが一層大きくなり、顔色は篠谷に見られた時よりも悪くなってしまったかもしれない。それでも、瞳にちゃんと意志の光がある。
 沢渡はおそらく学園を出ていくことになるだろう。警察沙汰になるかどうかは怪しいが、これだけの事件を起こした以上、学園が彼女を留め置くとは思えない。学園と言う舞台から退場した彼女がどうなるのかわからない。ただ、すべてを諦めたような、すべてを放棄するような生き方はしてほしくなかった。自分の罪の責任も背負って、それでもちゃんと生きてほしかった。

「その感触を味わって一生頭から離れなくなってでも、また私を殺したいと思ったのなら、今度はちゃんと正々堂々勝負しに来て。誰の手も借りないで、沢渡一人の手で、私を殺しに来て」

一番好きなところを最初に投じるスタイル。ちなみに読んだ方は文脈でわかると思いますが、本当に殺そうとした相手に殺されそうになった直後にこう語りかけてます。この主人公の現実認識伝わってきます。心が温まりますね。